日本英語教育史学会

英語教育史研究文献案内

 

 

 

(1) 年表  |  (2) 事典  |  (3) 通史  |  (4) 書誌  |  (5) 雑誌

 

 

(1)年表

 

「論文を書くには、まずそのテーマの関連年表を作ること。年表が出来上がれば、その論文は完成したようなものだ」とある歴史学者が書いていた。しかし、そのようなテーマ別年表も、総合年表から関連事項を抜書きして作るのが普通である。

英語教育史の分野ではどんな年表があるだろうか。ぼくが最初に利用したのは『日本の英学100年』の別巻(1969, 研究社)に載っている高梨健吉・大村喜吉共編の「年表」だった。このソースは主として「英語青年」毎号の巻末の雑録らしいが、読んで大変面白かった。それを拡充したものに『英語教育史資料』第5巻(1980, 東京法令出版)の出来成訓編「総合年表」がある。これは岩波の『近代日本総合年表』のように1年に見開き2ページ分をとって、6つの項目別に欄を分けたもので、大変に詳しい。

ぼくも『英語教育』や『現代英語教育』が記念号を出すたびに年表作りを頼まれた。それらは戦後を対象にしたものだったので、明治以降を茂住實男氏に書いてもらったのが、『英語科教育法入門』(1988, 1991, 学文社、現在は『あたらしい英語科教育法』(2001))の巻末に付けた年表である。「デス・マス」調の年表というのは珍しい。この年表は『日本英語教育史研究』17号に再録されている。

蘭学時代を中心としたものに大槻如電の古典的名著『新撰洋学年表』(明治10年まで)がある。これには毛筆版1927, 六合館)、活字版1963, 柏林社)、増補版(1965, 錦正社)があるが、毛筆版は若い人には無理、増補版は原著の味が失われている。本書の良さは項目の取捨と解説とのバランスの良さにあると思う。

 

 

(2)事典

 

英語教育史の事典といえば、人名と書名が中心になる。事典ではないが簡潔で便利なものに『日本の英学100年』別巻(研究社, 1969)の高梨健吉「英学者略伝」がある。日本人は生年順、外国人は来日順になっているが、各項4−5行にまとめてあるので、拾い読みしてここに出ている人物くらいは頭に入れておくといい。

日蘭学会編『洋学史事典』(雄松堂出版, 1984)は蘭学史が中心なので、英学、殊に英語教育史関係は薄いが、あげておく。巻頭に「概説」(沼田次郎)、巻末に「年表」「索引」(人名・書名・事項)のほかに「付表」(長崎奉行やオランダ商館長・医師のリストほか)もついていて便利。

英語教育史資料5』(1980)には大村喜吉・高梨健吉・出来成訓による「英語教育事典」がある。アイウエオ部門とアルファベット部門に分けられ、英書は後者に出ている。大村氏の担当項目は長くて個性的、高梨氏のは簡にして要を得、出来氏のはその中間だが他書にない項目がいくつか見出される。

外国人名を調べるのに便利なのは武内博編著『来日西洋人人名事典』(日外アソシエーツ, 1995, 増補改定普及版)。いちいち文献があげてあるのがすごい。その他、佐々木達・木原研三編集英語学人名辞典』(研究社, 1995)は外国の英語学者中心だが、教育史研究にも役立つかも。

以上、事典というのは結局、自分の求める項目が出ていればいい事典、出ていなければ役に立たないということになるが、その場合には研究書の索引などを調べてみると意外な所に見つかることがある。だから索引の無い本というものは、研究者にとっては利用価値が半減する、ということになる。日本の本にはまだまだ索引の付いてないものが多い。本を出すときには、必ず索引をつけるようにしましょう。

 

 

(3)通史

 

通史の条件を、(1)一冊本、(2)書き下ろしの単独執筆、(3)少なくとも1980年代、昭和の終わりまでをカバーし、(4)最小限年表と索引が付いていること、とすると、これを満たすものは現時点では残念ながら一冊もない。そろそろ本格的な通史が書かれてもいい頃ではないだろうか。

この4条件を少しゆるめてみると、戦前のものではあるが、櫻井役『日本英語教育史稿』(1936初版, 1970復刻版, 文化評論社)という名著が浮かび上がってくる。ウィリアム・アダムスから昭和戦前の英語存廃論までを扱っているが、本書の特色はひたすら客観的事実の記述に徹していて、著者の意見や感想を表に出そうとしない点であろう。文部省督学官という立場のせいもあったかもしれないが、それ以上に著者の歴史観による所が大きかったと思う。それがこの本の長寿の秘密ではなかろうか。

戦前のものでもう1冊、研究社の英語教育叢書」の26、『我国における英語教授法の沿革』(1935)をあげておきたい。片山寛著とあるが、先年亡くなられた皆川三郎氏が執筆されたものらしい。63ページのなかに徳川時代から明治・大正そして「現時の英語教授」までを実に良くまとめてある。

戦後では、共著ではあるが良く読まれているものに、高梨健吉・大村喜吉日本の英語教育史』(大修館書店, 1975)がある。雑誌連載をまとめたものだが、「英学史から見た日本の英語教育」「英学を支えた人々」「英語教育論争史TU」「戦後英語教育方法史」最後に「日本の英語教育史年表」と「参考文献」がついている。索引がないのが残念。

福原麟太郎日本の英学史』(新潮社・日本文化研究3, 1959)も僅か明治中期までだが、なかなか読ませる。昭和に限ったものでは、若林俊輔編昭和50年の英語教育』(大修館書店, 1980)がある。1人5年ずつ10人による分担執筆。1990年代に入ってからのものでは、講座ものの1冊だが、ニチブンの「ECOLA英語科教育実践講座」の第17巻『英語教育の歴史と展望』(1992)がある。明治を堀口俊一氏、大正を出来成訓氏、昭和を伊村と羽鳥博愛氏が担当している。

最後に、伊村と若林氏との共著『英語教育の歩み』(中教出版「英語教育シリーズ」4, 1980)をあげさせていただきたい。第1部は蘭学から戦時下の英語教育までで伊村の担当。第2部は若林氏の戦後教科書の変遷。

 

 

(4)書誌

 

「どのような分野の研究であれ、過去の業績を知ることは必要不可欠であり、その関連書誌がいかに重要であるかは多言を要しない。問題の所在を的確に知り、研究上の重複や無駄を省くためにも、書誌は研究に携わるものがまず参照すべき基礎資料である」とは、先年『わが国における英語学研究文献書誌 1900-1996』を上梓された田島松二教授の言葉である。

英学関係の代表的な書誌としては、古くは荒木伊兵衛氏の『日本英語学書誌』(創元社, 1931)があり、そのコレクションが大阪女子大学に入って日本英学資料解題』(1962)と『蘭学英学資料選』(1991)を生んだ。

英語教育史プロパーでは、戦前のものだが、赤祖父茂徳編英語教授法書誌』(英語教授研究所, 開拓社, 1938)という立派なものがある。この名著は、ゆまに書房の『近代日本英語・英米文学書誌 第4巻−英語教授法−』(1995)で全文復刻されている。単行本のほか雑誌論文も含まれていて、全720点が「英語教育に関する一般論」「目的・目標・価値」「教材」「教授法(これは更に10項目に下位区分されている)」「教師」「制度」に分類整理され、重要文献には数ページにもわたる解説が付されている。巻末には著者・執筆者の索引もある。

戦後のものでは、研究社出版の『英語年鑑』の巻頭記事のひとつとして高梨氏が長年にわたって担当された年間記録「英学史の研究」(現在は出来氏が担当)があり、昭和50年度から平成5年度の分は同氏の日本英学史考』に再録されている。その他文献調査に役立つものとしては、出版社の出版目録(特に研究社八十五年の歩み』およびその別冊総索引(1992, 1997))がある。小川図書などの古書店の在庫目録も重宝だ。図書館や個人の蔵書目録、研究書に付されている参考文献目録なども使いようによっては役に立つ。雑誌記事については、また回を改めて取り上げることにする。

それにしても、最初にあげた英語学の書誌に負けないような英語教育史の研究文献書誌がそろそろ作られてもいい頃ではないか。

 

 

(5)雑誌

 

雑誌といっても各誌の栄枯盛衰の話ではない。必要な記事をどうやって探すか、である。バック・ナンバーをすべて手元に揃えておくことはまず不可能だから、どこの図書館に何があるかを調べておいて、後は『目次総覧』で探す、というのが実行可能なやりかただろう。出来成訓監修の雑誌目次総覧』(大空社)は「英語教育雑誌」4巻、「英語総合雑誌」12巻、「英米文学・英語学雑誌」3巻からなる、大変な労作である。各号の目次ページをまとめたものだが、それぞれに別巻の「著者名索引」が付いているので助かる。これがデータ・ベース化されて、キーワードで検索できるようにでもなると便利なのだが。

復刻版が出ている雑誌には分類目録と索引がたいてい付いている。『日本英学新誌』(雄松堂)、『中外英字新聞』(マイクロフィルム版, ナダ書房)、『英語青年』(1954年まで, 研究社)、『英語教授』(名著普及会)、『英語の日本』(本の友社)、英語教授研究所のThe Bulletin(名著普及会)、『英語の研究と教授』(本の友社)など。現在刊行中の雑誌の場合には、年度末に1年分の「総目録」が付く。『英語教育』(大修館書店)の創刊20周年記念号には筆者の「『英語教育』誌上に見る英語教育20年の歩み」がある。50周年記念別冊『英語教育Fifty』の付録にCD-ROMの形で50年分の総目録がついていて、エクセルで検索も可能になり、とても便利だ。

英学史研究』『日本英語教育史研究』については、前記『目次総覧』の英語学の巻にもあるが、前者の目次は同学会の名簿の巻末にも載っている。分類したものは、後者の第5号に「英語教育史関係選考研究の紹介−英学史学会25年のなかから」および同誌10号までの分類目録(いずれも茂住實男氏による)があり、その増補版を『日本英語教育史研究』第16号に掲載した。

 

 

(注記: 上記文献案内は『月報』140号〜144号に掲載(『日本英語教育史研究』15号、16号に再録)されたものをアップデートしたものである。なお、文中にWebsite管理者によって施されたリンクは、主にNACSIS Webcat 合目録データベースの検索結果ページへのリンクであり、所蔵図書館等の情報を示したものである。)

 


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